Electronics Pick-up by Akira Fukuda

日本で2番目に(?)半導体技術に詳しいライターのブログ

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2020年も半導体が面白い理由(あるいは2020年に書く記事の予告編)

2020年も半導体は面白い。あくまで個人的な感想です。以下にいくつか理由を挙げていきます。

1)「微細化は正義」が本格的に駄目になりつつある

微細化してもモノリシックなシリコンダイの性能(動作周波数)が向上しない。駄目になる理由は粗くまとめるとこれに尽きます。
微細化しても得られるのは、密度の向上、あるいは同じダイサイズでのトランジスタ数が増えるだけ。性能の向上はごくわずか。でも製造コストは上がる。

トランジスタ数が増えるから、ダイに収容できる機能が増えるので製造コスト向上を吸収できる、というのは嘘です。
新たに作り込もうとする機能は、CMOSデジタルの製造技術だと、実現できないことが多い。異なるプロセス技術になってしまう。
CMOSデジタルで取り込める機能はすでに、取り尽くした感があります。
さらに言ってしまうとCMOSデジタルの微細化はFinFET時代に入って汎用性がかなり失われました。ほかのプロセスと共用しづらくなってしまった。


すると、そこそこの性能で良い機能は緩くて安価なプロセスの大きめなダイで作り、ごくわずかでも性能の向上を得たい機能だけを最先端で高価なプロセスでシリコン面積を節約した小さなダイに乗せる。2つ以上のダイを組み合わせたほうが合理的ということになります。これがチップレットです。モノリシック化、ワンチップ化の終わりだとも言えます。言い換えると「ムーアの法則は危篤状態」あるいは「死亡宣告待ち状態」になってます。


2)シリコンから別の材料への動きが広がりつつある

微細化の限界は、シリコン材料の限界でもあります。材料限界を乗り越える手段は、材料を変更することです。
シリコンのキャリア移動度はトランジスタの動作周波数を大きく左右します。そこで移動度の高い別の材料で集積回路を作ってしまう。なおかつ集積密度を高めるため、3次元化(積層)する。次世代ロジック向けに研究はすでに活発です。材料の候補はゲルマニウムインジウムガリウム砒素など。上手くいくかどうかは、まだわかりません。


パワートランジスタの世界ではすでにシリコンの限界が来ています。炭化シリコン(シリコンカーバイド)と窒化ガリウムのパワートランジスタが、すでにシリコンを超える性能を実現しており、製品化されています。次の注目材料は酸化ガリウムです。


3)人工知能(AI)(機械学習、深層学習)が次の巨大市場になるのか。それともAIハードウェアは一時的なものになってしまうのか

半導体市場を金額ベースで見たときの主役は、データセンターとスマートフォンとパソコンでしょう。ここに人工知能(AI)が加わるかどうかが、半導体業界の重要な関心事項です。すでに基本的な機械学習のマクロはスマートフォン用チップに入っています。自動車交通の次世代プラットフォームになる「自動運転車」にもAIは不可欠です。防犯カメラのスマート化にも機械学習が必要とされています。

問題なのは、実現手法です。ソフトウェアなのかハードウェアなのか。ソフトウェアですべて実現するのだとしたら、AIハードウェアの出番はなくなります。ハードウェアだとしたら、それはどのようなアーキテクチャになるのか。これはまだ見えていません。さらに問題なのが、AIハードウェアの評価手法が定まっていないことです。データセットを使って学習させて推論の正解率がこれだけあって消費電力がこれだけで済みます、というだけでは十分ではありません。そもそもデータセットは特殊なユースケースであり、一般化は無理です。


4)半導体メモリの市況はいつ、本格的に回復するのか

2019年の半導体メモリ大手3社の売上高は前年比でおおよそ3割減という惨憺たるものでした。半導体メモリ市場そのものが33%減(WSTSの見込み値)なのですから、当然と言えば当然です。
2019年後半に回復するとの期待は崩れました。米中貿易摩擦や中国の特定企業に対する米国政府の締め付けなどにより、回復は遅れています。さすがに2020年前半には、弱いながらも回復すると期待したいところです。


5)次世代不揮発性メモリの行方

自分の常時モニター分野です。埋め込みMRAM市場は立ち上がるのか。3次元クロスポイント構造の大容量メモリで新規参入はあるのか。ReRAM(多値メモリ)のAIハードウェア応用は本格化するのか。NRAMの研究開発は、大丈夫なのか(富士通の姿勢が消極的になっている)。このあたりが関心事項です。


6)3D NANDフラッシュメモリの高密度化

3D NANDフラッシュメモリの高密度化は、まだまだ進みそうです。王道の高層化だけでなく、5bit/セルの多値化や半円形セル、次世代ワード線金属、チャンネル単結晶化などの要素技術が高密度化を支援してくれることが見えてきました。詳しくは記事でまとめる予定です。


とりあえずはこのくらいでしょうか。思いついたら、追加しますね。