Electronics Pick-up by Akira Fukuda

日本で2番目に(?)半導体技術に詳しいライターのブログ

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日経エレクトロニクス2006年10月23日号特集に対する個人的意見


まず、この記事をお読み下さることをお薦めします。大原雄介氏による「IBM BlueGene/L」の解説です。非常に分かりやすく、かつ詳しい内容です。
http://journal.mycom.co.jp/articles/2004/10/14/fpf/


上記記事を読まれてから、日経エレクトロニクス2006年10月23日号特集「ペタコン技術が家電を磨く」を読むことをお薦めします。
筆者の野澤記者によるブログ「家電とスーパーコンピュータが急接近」
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/TOPCOL/20061023/122554/
特集記事の要点
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/HONSHI/20061019/122430/


先に意見を述べます。本特集を自分は、「仮説を提出した記事」としては認めますが、「事実を記述した記事」とは、現時点では認められません。記述に納得できない個所や論理に整合のとれていない個所がいくつかあります。


いくつか引用します。
まずスパコンへの汎用技術導入について。
112頁「最近のスーパーコンピュータには、民生機器向けに開発された技術が続々と採用されている」
114頁「民生機器向けに生まれた汎用技術がスーパーコンピュータに採用され」
115頁「そのスーパーコンピュータが、汎用技術の採用へと動き始めているのには」
116頁「スーパーコンピュータが汎用技術の導入を始めた」
→こんなに繰り返されているのに、具体的事例が「86系プロセッサの搭載」と「IBM BlueGene/LのPowerPC440」以外に記述されていません。このため、論拠が弱いです。86系プロセッサやPowerPC440が「民生機器向けプロセッサ」なのかについても疑問があります。


114頁「スーパーコンピュータからは、SIMDアーキテクチャや・・GaAsトランジスタといった具合に数多くの要素技術が生まれ、やがて民生機器へと広まった。例えば・・・GaAsトランジスタは携帯電話機やその基地局などで広く使われている」
→携帯電話機のGaAsデバイスは高周波デバイスであり、スパコンのGaAs論理LSIとは生い立ちがまったく違います。両者を直接結び付けるのは牽強付会に感じます。


116頁「最近では組み込み機器にも、スーパーコンピュータと同様に大規模なネットワークや高度な制御を必要とする用途が増えてきた」
スパコンの用途で大規模ネットワークを必要とするものとは何か?
スパコンの用途で高度な制御を必要とするものとは何か?
この記述からは、計算処理性能を追求する計算機と、制御用途が主体である組み込み機器の違いが理解されていないのではないかとの疑問が生じます。


117頁「汎用技術を用いながらもそれぞれを最適化し、システムを構築する工夫がスーパーコンピュータの開発現場でこのところ盛んになっている。・・中略・・・既に成果も上がり始めている。例えば、汎用のCPUコアに特定用途向けの演算ユニットを組み合わせることでマイクロプロセサを構成し、演算性能や電力効率を向上する手法である。」
→手法を「成果」と呼ぶのは納得できません。


117頁「DRAMをマイクロプロセサに積層してメモリ帯域を確保したり、FPGAを高速化しつつ消費電力を大幅に削減する技術の開発や、Ethernetなど既存の規格を独自のミドルウエアと組み合わせて低コストを保ったままネットワークの帯域を何倍にも増やしたり」
→これが「スーパーコンピュータの開発現場で盛んになっている動き」の例として上げられています。そして124頁を読むと「DRAMをマイクロプロセサに積層」はPSPのシリコンオンシリコンだと分かります。124頁ではこの技術を「新技術」「次世代のスパコンを先取り」としていますが、シリコンオンシリコンは新技術ではないと認識しています。例えば米IBMは汎用大型計算機向けに、何十年も前から開発しています。


119頁「同社(筆者注:ATI社)はAMD社に買収されることが決まっている。それをキッカケにグラフィックスLSI技術を活用した高性能コンピュータ市場が開けた
→裏付け記述が見当たりません。仮説として認めることにします。


それから。120頁の図3がさっぱり分かりません。絵解きにはCPUコアとDRAMを1対1で貼り付けるとありますが、図を拝見する限りでは、マイクロプロセッサが1チップ(1ダイ)、DRAMが1ダイです。100コアだとDRAMを100ダイ積み重ねるということでしょうか・・・(それだと非現実的ですが)。


とにかく日経エレクトロニクスを読んでいてこんなに困ったのは久しぶりです。スパコンの数え方が台数だったりシステム数だったり、果ては件数(113頁のグラフ縦軸)だったり、あるいは音引きがふぞろい(プリンター、メモリ、プログラマー)だったりするのはもはや細かいことです。疲れました。


本特集を読んだ皆さまのご意見をお待ちしております。


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