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推薦! 筒井康隆氏の自選ドタバタ傑作集第1巻「最後の喫煙者」

新潮文庫から発行されている自選ドタバタ短編小説傑作集第1巻「最後の喫煙者」です。
本体価格438円。

最後の喫煙者―自選ドタバタ傑作集〈1〉 (新潮文庫)

最後の喫煙者―自選ドタバタ傑作集〈1〉 (新潮文庫)


先にご紹介した「傾いた世界」に比べると、本書に収録された作品はずっと刺激が強いです。もちろん傑作ぞろいというか、問題作ぞろいで、「傾いた世界」のように超お気に入りになった作品はありませんが、各作品のアクの強さときたら、1作品を読むとアタマを小休止させないと次が読めないくらいでした。毒物、劇物の収録棚だと言えます。


そこで収録作品を順番にちょっとずつコメントします。

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「急流」。実はこの作品、筒井康隆氏が漫画化しています。本人が漫画を描いています。自分は漫画作品の「急流」を先に読んでいました。初めてテキストの「急流」を読みました。結末は分かっているので表現の違いを読み取ろうと望んだのですが、テキストの情報量は圧倒的です。いやはや、描写が凄い作品です。タネそのものはごく普通のSFなんですけれども。


「問題外科」。筒井康隆氏の本領がいかんなく発揮されています。白い巨塔を思いっきり戯画化しているテキストが濁流のように浴びせられます。自分は漫画でエログロ表現にはかなり慣れているので読めましたが、エログロの表現に慣れていない読者には相当に厳しい作品です。


「最後の喫煙者」。表題作です。筒井作品の特徴に、物事をエスカレートさせていくとどうなるか、という思考実験を小説にしたものがあります。筒井作品の傑作「三丁目が戦争です」を知っている方であれば、筒井康隆氏の物事をエスカレートさせる手法の凄さが分かるかと思います。その真骨頂がいかんなく発揮されているのが本作です。タイトルから分かる通り、禁煙運動のエスカレートがテーマです。昔に一度、別の本で読んだ後、映像化してくれないかなあとか思っていたら、テレビドラマになったという記憶があります。テレビドラマもなかなか面白かったです。


「老境のターザン」。本作はタイトル通り、あの「ターザン」のパロディです。著名作品のヒーローやヒロインが高齢化したらどうなるのか。存分に楽しめます。


「こぶ天才」。本書の中では最も毒性が少ない作品です。作品の基礎となるアイデアが凄いです。この発想はありませんでした。脱帽です。


ヤマザキ」。歴史ものです。織田信長が暗殺されて羽柴秀吉山崎の戦いに望むまでを描いています。こう書くと何があるのか分からないでしょうけど、分からないままにしておきます。この手法は筒井作品で初めて出会いました。いやなんというか。この発想はなかった。


「喪失の日」。何を喪失するのか。「童貞」です。童貞喪失に望まんとする自意識過剰すぎる男性(主人公)の妄想暴走特急ぶりが描かれています。男性読者には、身に覚えのある箇所が1つくらいはありそうです。読んでいて赤面する傑作といえましょう。


「平行世界」。筒井作品を読んでいると、テキストが描いている風景や情景などをありありとイメージすることがあります。自分はこの作品を読んでいるとき、アタマの中にありありとこの「平行世界」がリアルに浮かび、その壮大さに卒倒しそうになりました。派手さとか毒とかは控えめ少なめですが、とても味わい深い作品です。


「万延元年のラグビー」。これも歴史もので「ヤマザキ」と同じ系統の作品です。ただし、本作は「ヤマザキ」よりも、ずっとずっとスプラッタでグロいです。


短篇集ですので、どこから読んでも一気に進めます。読後感の良い作品はほとんどありませんが、毒にも薬にもならないつまらない小説よりは、はるかに有益だと信じております。