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推薦! 津波の常識が覆る「津波災害」(岩波新書)


定価720円プラス消費税。新書は本当に内容にばらつきがあります。

本書には、この価格では申し訳ないと思えるほどの情報が詰まっています。有り難いことです。

津波災害――減災社会を築く (岩波新書)

津波災害――減災社会を築く (岩波新書)


地震国日本で暮らす私たちにとって「津波」は身近な災厄といえます。子供の頃から、津波について何らかの知識を教え込まれてきた方が少なくないでしょう。しかしその常識は、本当なのでしょうか。以下に、津波の常識と思われてきた(と勝手に推測しています。すみません)事例を記します。そのいくつかが間違っていることを本書から教えられました。さて、どれが間違っているのでしょうか。


1)津波の直前には、潮が異常に引く

2)津波は第1波(最初の波)が最も大きい

3)津波で不幸にして亡くなった方の死因は溺死である

4)津波地震発生直後の1時間くらいは警戒すること

5)高さ10メートルの防波堤があれば、高さ10メートルの津波がきても大丈夫だ







・・・考えていだけましたでしょうか。それでは回答です。
1)〜5)の中で間違っている番号は・・・











「全部間違ってます」


それでは答え合わせをしましょう。

1)津波には(沿岸からみたときに)押し波と引き波があります。どちらが最初にやってくるかは分かりません。押し波のときは、いきなり津波がやってきます。直前に潮が引いたりはしません。

自分も津波の直前には潮が引くものだと思ってました。これは小学生のときに教師から教えられた知識です。これが間違っていたのです。

そしてこの誤った常識は、非常に危険だと本書は指摘しています。なぜなら、海岸に様子を見に行ってしまう人(そして津波に巻き込まれてしまう人)が後を断たないからです。



2)津波は第1波よりも第2波が大きいことがあります。何番目の波が最大かは、そのときになってみないと分かりません。



3)津波の死因には骨折(首が折れる)や内蔵破裂、全身打撲などが珍しくありません。条件によっては火傷をすることもあります(砂浜を引き摺られるため)。


4)津波は半日は危険が続くことがあります。1〜2時間で大丈夫だろうと低地に戻ると、次の波がやってきて遭難することがあります。


5)ここが最も重要です。なぜかというと、高さ10メートルの防波堤は、高潮と高波を想定して作られているからです。高さ10メートルの津波を想定したものではありません。津波が防波堤にぶつかると海面が盛り上がり、その高さは1.5倍くらいになります。高さ10メートルの津波ですと、15メートルの高さになり、防波堤を乗り越えてしまうのです。


さらに重要なことがあります。防潮堤や防波堤や堤防などは、津波によって決壊するということです。津波には「津波防波堤」と呼ばれる、非常に建築費用の高い、特別な防波堤でないと役立ちません。通常の堤防や防波堤は高潮と高波を想定しているため、津波に対しては簡単に決壊し、決壊個所が広がり、津波はそこから陸地を流れていきます。



津波と「高潮」と「高波」の違いはあまり認識されていないようにみえます。自分もそうでした。言葉は知っていますがなんとなくおぼろげにしか、その違いを頭に描いていませんでした。本書はそういったあやふやな考えを打ち砕き、「津波」とは最も恐ろしく、「高波・高潮」とは本質的に異なるものだと教えてくれます(高波や高潮が恐ろしくないという意味ではありません)。


津波は波ではありません。「流れ」です。それは突然、深さ何メートルもの大河が出現し、あとからあとから水が流れてくる様と似ています。恐ろしいことに、海岸で堤防を乗り越えたときに深さが2メートルの津波が陸を100メートル進んでも、その深さは2メートルのままなのです。


自分は本書の存在を、サイエンスライター森山和道氏が記した書評(Interface 2011年6月号、p.133)で知りました。森山氏にはここで感謝したく存じます。


2010年12月に(東日本大震災の直前に)刊行された本書は、2010年2月27日に発生したチリ沖地震津波に伴うできごとが出版のきっかけとなっています。


それは、チリ沖地震津波による避難指示・避難勧告を住民約168万人を対象に出したところ、実際に避難した人数はわずか3.8パーセントだったことです。しかも津波常襲地帯でも5.1%の人しか避難しなかった。津波災害の研究者である著者は「このままでは大変なことになる」と強い危機感を抱いたことでした。


今から振り返ると、その危機感は至極まっとうなものであり、不幸な形で的中してしまいました。つい先日、NHKスペシャル津波の被災者に、津波襲来時点でどのような行動をとっていたかのインタビューをまとめた番組がありました。そこで津波常襲地帯で避難訓練を定期的に実施している市の住民に対する震災後のアンケート結果が出ていました。津波に対して避難したかどうかをたずねたところ、34%の人が避難行動を取らなかったと答えていました。あれだけの揺れがあった地震でも34%の人が避難行動をとらなかった。しかも津波に巻き込まれて死んだ人(ほぼ避難行動を取らなかった方と推測します)はアンケートに答えられませんので、34%以上の人が避難行動をとらなかったと容易に推測できます。


津波災害――減災社会を築く (岩波新書)

津波災害――減災社会を築く (岩波新書)



「避難指示が100回あっても、99回は津波なんか来んかった。避難する気になんかなるかい」とNHKのインタビューに答えていた被災者の言葉が重いです。


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