Electronics Pick-up by Akira Fukuda

日本で2番目に(?)半導体技術に詳しいライターのブログ

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アジレント・テクノロジーの超広帯域オシロスコープ新製品

アジレント・テクノロジーが4月11日に東京都江東区有明の東京コンファレンスセンター・有明で新製品発表の記者会見を開催しました。超広帯域オシロスコープのハイエンド品です。会見から起こした記事をマイナビニュース様に掲載していただきました。


「Agilent、帯域幅が63GHzの超広帯域オシロスコープを発売」
http://news.mynavi.jp/news/2012/04/11/115/index.html
いつもは詳しいカタログを参照して記事に情報を追加するのですが、この製品に関しては詳しいカタログが見つかりませんでした。そのため、記事の内容は浅いです。


EDN Japanにも記事が掲載されております。計測機器に関する記事を日本でたぶん最も深く書ける、薩川副編集長による署名記事です。


「アジレント DSOX 90000Q:63GHzの超広帯域リアルタイムオシロ、ノイズとジッタも業界最小をうたう」
http://ednjapan.com/edn/articles/1204/11/news086.html



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4月12日にはTech-On!にも日経エレクトロニクスの久米記者による署名記事が掲載されました。

「アジレント、63GHzと超広帯域なデジタル・オシロを発売」
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20120412/212530/

大変残念なことに、Tech-On!の記事を知ったのは、「私がマイナビニュースに執筆した記事と類似の表現がTech-On!の記事に見られる」との連絡を受けてからです。


驚いて両者を見比べました。連絡を下さった方のおっしゃる通りでした。前半に類似の表現と文脈が見られます。
特に問題なのはこの箇所です。


マイナビニュース:「記者会見の冒頭で挨拶したアジレント・テクノロジー代表取締役社長の梅島正明氏は、「90000Qシリーズ」開発の背景を説明した。通信やネットワークなどのさらなる高速化によって最先端技術による搬送波の基本波周波数は14GHz/16GHzに達しており、その3次高調波である42GHz/48GHzの信号を観測できるオシロスコープが求められるようになったという。」


Tech-On!:「同社代表取締役社長の梅島正明氏は、報道機関向け発表会で「90000Qシリーズの開発の背景には、通信やネットワークなどのさらなる高速化が進んでいる。例えば、最先端技術を使った搬送波の基本波周波数は14GHz/16GHzに達しており、その3次高調波である42GHz/48GHzの信号を観測できるオシロスコープが求められるようになってきた」と語った。」


似てますね。あわてて日経エレクトロニクス編集部に電話しました。久米記者は不在。担当デスクも不在。「担当デスクから電話をかえすので電話番号を教えて下さい」ということで電話を待ちました。ところが、2時間ほどたってから電話をかけてきたのは編集部ではなく「読者サービスセンター」でした。両者の類似を指摘し、返答を待ちました。さらに3時間ほどして返答がありました。


読者サービスセンター:「編集部から返答がありました。ご指摘の記事は、久米記者が発表会に出席し、その内容から執筆したものです」
自分:「分かりました」


読者サービスセンターとやりあっても時間の無駄になる可能性が高いです。コミュニケーションは拒否されました。残念です。


断言しますが、編集部の返答は「虚言」です。
なぜかというと、梅島社長のコメントは、僕以外には絶対に作れるはずがないからです。その理由は簡単です。僕の記事の文章は、発表会での梅島社長の発言をトレースしたものではないからです。録音を再生すると一目りょう然なのですが、このままの発言はしていません。僕の記事は、意訳なのです。意味として明りょうになるように、アレンジしています。そのため、カギカッコ付き(「」付き)のコメントにはしていません。ところが久米記者はほぼ同じ内容をカギカッコ付きで記述しています。

ですから、1億分の1以下の偶然が重ならない限り、ここまで似た文章になることは、最初からありえないのです。アレンジは個人的な事柄ですので、多種多様になるはずです。僕のクセは「さらなる」、「最先端技術」、「搬送波」、「基本周波数」、「達しており」といった表現です。ここまで重なるとは、偶然ではすまされません。

文脈も似ています。

続いて第3段落の文章を比較しましょう。

マイナビニュース:「「90000Qシリーズ」では、「90000Xシリーズ」の開発で得られたハードウェア資産を流用するとともに、改良を加えることで帯域幅を広げている。アナログ・フロント・エンドはInP化合物半導体ヘテロバイポーラICによるマルチチップモジュールで実現した。これは基本的には「90000Xシリーズ」と同じものである。」


Tech-On!:「 90000Qシリーズの開発では、90000Xシリーズに用いたハードウエアを流用しながら、改良を加えることで周波数帯域幅を約2倍に広げた。アナログ・フロントエンドはInP(インジウムリン)化合物半導体ヘテロ・バイポーラICによるマルチチップ・モジュールで、90000Xシリーズと同じものである。」


似ていますよね(?)。特に問題なのは「マルチチップ・モジュール」という用語です。実は、アジレント・テクノロジーは記者会見ではこのような表現はしていません。僕が分かりやすくするために、マルチチップ・モジュールという用語を使ったのです。偶然の一致とは恐ろしいものです。


そして第4段落です。

マイナビニュース:「大きく違うのはデータ収集ボードの枚数だ。「90000Xシリーズ」では33GHz×1チャンネルのデータ収集ボードを2枚搭載し、2チャンネルの33GHz入力に対応していた。これに対して今回の「90000Qシリーズ」では、33GHz×1チャンネルのデータ収集ボードを4枚、搭載した。そしてデータ収集ボードをインタリーブ動作させ、63GHz×2チャンネルのデータ収集サブシステムとして動かした。」


Tech-On!:「 90000Xシリーズとの違いは、アクイジョン・ボードの枚数だ。90000Xシリーズでは33GHz×1チャネルのアクイジョン・ボードを2個搭載し、2チャネルの33GHz入力に対応していた。今回、90000Qシリーズでは33GHz×1チャネルのアクイジョン・ボードを4個搭載している。さらに、アクイジョン・ボードをインタリーブ動作させ、63GHz×2チャネルのデータ収集サブシステムとして動かすことを可能にした。」


両者はずいぶん違いますね(すみません、冗談です)。間違えました両者はよく似ています。違うのは、
データ収集ボード→アクイジション・ボード
2枚→2個
チャンネル→チャネル
動かした→動かすことを可能にした
くらいです。あとはそっくりです。偶然とは恐ろしいものです。
ちなみに僕のクセは「搭載」と「対応」です。ここはそっくり残ってます。


僕の書いた記事はここで終わります。しかしこれで終わりではなかったのです。この先は、EDNJapan誌の薩川氏の執筆した記事と偶然の一致をみます。

EDNJapan:「最大帯域幅が20GHz、25GHz、33GHz、50GHz、63GHzと異なる5機種を用意した。50GHz機と63GHz機については、最大帯域幅が得られるのは同時使用チャネル数が2チャネル以下の場合である。3〜4チャネル同時使用時はいずれも33GHzにとどまる。」


Tech-On!:「90000Qシリーズは10機種からなる。周波数帯域幅が20GHz、25GHz、33GHz、50GHz、63GHzと異なる5機種のオシロスコープ「DSOX」と、それぞれの機種に解析機能(ジッター解析機能とシリアルデータ解析機能)を追加した「DSAX」5機種である。周波数帯域幅が50GHzと63GHzの機種については、最大帯域幅が得られるのは同時使用チャネル数が2チャネル以下の場合。3〜4チャネル同時使用時は、いずれも33GHzとなる。」

「と異なる5機種」
「以下の場合」
「3〜4チャネル同時使用時はいずれも」
上記の単語で偶然の一致がみられます。そして文脈がおおむね一致しています。


さらに偶然の一致は続きます。

EETimesJapan:「63GHz機「DSOX96204Q」の主な特性は以下の通り。サンプリング速度は、同時使用チャネル数が2チャネル以下の場合に最大160Gサンプル/秒、3〜4チャネル同時使用時に最大80Gサンプル/秒。波形メモリの容量は標準20Mポイント。オプションで最大2Gポイントまで拡張できる。ノイズフロアは50mV/目盛設定時に4.4mV、ジッタフロアは75fs(フェムト秒)未満だという。いずれも「業界最小だ」(アジレント・テクノロジー)と主張する。価格は、5217万8856円(2012年4月11日時点の税別参考価格)。2012年7月に一部の顧客に向けて出荷を開始する。」


Tech-On!:「主な特性は、周波数帯域幅が63GHzの機種「DSOX96204Q」で以下の通り。サンプリング速度は、同時使用チャネル数が2チャネル以下の場合に最大160Gサンプル/秒、3〜4チャネル同時使用時に最大80Gサンプル/秒。波形メモリの容量は標準20Mポイント。オプションで最大2Gポイントまで拡張可能だ。ジッタフロアは75fs(フェムト秒)未満で「業界最小」(アジレント・テクノロジー)という。価格は5217万8856円である(発表日時点での税抜き参考価格)。」


似てませんか。似てますよね。これで「似ていない」とか、「偶然の一致だ」と主張する方は僕まで、電子メールを送信してください。


結論です。久米氏の記事はおおむね、前半をマイナビニュースから、後半をEETimes Japanから「つまみ食い」して作ったものだと推定します。


そして仁義は切りました。編集部に直接電話して、穏便にすませようとしました。でも、拒否されました。拒否したのは貴方です。


【追記1】組み込みネットが同じ製品を取り上げた記事のURLです。
http://www.kumikomi.net/article/news/2012/04/11_01.php
ふつうは、記事によってこのくらいの違いが出ます。


【追記2】4月24日の時点で日経BP社から、この件に関して抗議やクレームなどはきておりません。一方、つまみ食いされた媒体からは何らかのアクションが日経に対してあるようです。抗議は見送られたらしいです。問題の一つに、1本の記事からのパクリではなく、2本の記事からのつまみ食いということがあります。このため、媒体からは抗議しにくいようです。そこまで分かってやっていたとしたら、相当に狡猾ですね。