Electronics Pick-up by Akira Fukuda

日本で2番目に(?)半導体技術に詳しいライターのブログ

コントロールド・サーキュレーションの甘い罠

一説に、有料定期購読方式の雑誌の開発コストは5億円〜10億円程度と言われている。
これは、1年購読や3年購読などの有料購読誌で何万という部数を集めることは簡単ではないことが大きい。例えば基本設計を「月刊誌(年12回発行)で年間購読料が1万2000円、創刊時部数を4万部」としよう。


4万部を集めるためには、少なくとも400万部のDMを送る必要がある。
DMコストを1部200円とすると、DM総コストは8億円になる。
もっとも年間購読料が1万2000円なので、仮にネット1万円とすると4億円の収入が後で入ることになる。差引4億円のマイナスである。


ただし、これはDMのヒット率を1%と仮定した場合の計算値だ。
1980年代ならともかく、現在のDMヒット率は非常に低い。言い換えると1%というのはものすごく甘い仮定である。0.5%でもあやしい。
ところが0.5%仮定になると、DM総コストは一気に2倍の16億円になってしまう。差引12億円のマイナスである。というか、そもそも800万部ものリストがそろえられるのかどうかがすでに怪しい。
そこで部数の設定を変える。2万部に減らす。これだと0.5%でDM総コスト8億円。差引6億円のマイナスである。


ここまで見ていくと部数2万部でも10億円近い開発資金が必要なことが容易にお分かりいただけると思う。
そこでコントロールド・サーキュレーションである。無料だから、有料定期購読に比べると部数の獲得は容易だ。例えば4万部、5万部でも、簡単に(低コストで)獲得できるに違いない。

もしそう考える発行人や出版社幹部がいたら、大馬鹿者だと断言する。正直言ってクズだ。
なぜか。それでは質問しよう。


「無料で1年間購読できる雑誌DMのヒット率は何%だと思いますか?」


自由回答だとややこしくなるので、選択問題にしておこう。


1番「33%」
2番「25%」
3番「10%」
4番「5%」
5番「2%」



・・・そろそろ良いかな?

それでは回答編へ。


1番「33%」と答えた方。
すみません。出直してください。
貴方がもし出版社で幹部職についておられるのでしたら、すぐに辞表を出すことをお薦めします。
貴方がもし出版社でこのような戯れ言を垂れ流す幹部の下で働いておられるのならば、すぐに異動願いを出すか、退社することをお薦めします。



2番「25%」と答えた方。
すみません。やっぱり出直してください。
貴方がもし出版社で幹部職についておられるのでしたら、すぐに辞表を出すことをお薦めします。
貴方がもし出版社でこのような戯れ言を垂れ流す幹部の下で働いておられるのならば、すぐに異動願いを出すか、退社することをお薦めします。




3番「10%」と答えた方。
かなり良いところにきていますが、まだまだ甘すぎです。
DMを10回ほど打って、1回あるかないかのヒット率です。



4番「5%」と答えた方。
貴方は現実的に物事を考えられる方です。
コントロールド・サーキュレーション方式の雑誌の発行人としてはまだ甘いですが、悪くはありません。
ただ、DMのヒット率はリストの善し悪しによって大きく左右されます。
リストが悪ければ、ヒット率は簡単に5%を割ります。
その現実を直視してください。


5番「2%」と答えた方。
貴方は現実を非常に厳しく捉えられる方です。
コントロールド・サーキュレーション方式の発行人にふさわしい見方です。
もちろん発行人として適格かどうかはこれだけでは決められません。
ですが、1番〜3番と回答した方に比べると適格であることは確かです。




無料定期購読雑誌のDMを数多く(たぶん20本以上)発送してきた結果を総括すると、
DMのヒット率は7%〜1%の間だった。
このヒット率は、コントロールド・サーキュレーションに期待する人間にとっては驚くべき、または信じ難い低さらしい。


しかし、現実は現実である。世間は決して甘くなく、厳しい。
「無料でも不要なもの」は不要なのである。
甘い夢をみるのは個人の勝手だが、社会的地位や権力のある人間が見る夢ではない。


現実をもう少し詳しく述べる。
極めて良好なリストを入手できた場合でも、ヒット率は7%だということ。
リストの品質が悪いと、ヒット率は簡単に1%以下にまで転落するということ。
始めに入手できるリストは総じて品質が高く、数を重ねるうちにリストの品質は低下していく傾向にあること。


だから、4万部をコントロールド・サーキュレーションで獲得するのは、簡単ではない。
2%のヒット率を仮定したときのDMのトータル発送部数は200万部。DMの1部当たりコストが200円として4億円かかる。もちろん有料定期購読よりも、コストは低い。当たり前だ。だが、最初の仮定で差引マイナスが4億円だったことを考えると、たいして変わらないともいえる。販売収入はゼロなのだから。


そして忘れてはならないのが、購読申し込み期間である。
4万部をどのくらいの期間で獲得するか、だ。


1カ月? 3カ月? 半年? 1年?


部数公査機関のBPAでは読者属性を1年ごとに更新することを求めている。
(参考エントリー(http://d.hatena.ne.jp/affiliate_with/20060709))
そこで実際には、3カ月程度で集中的に読者を獲得する必要がある。
3カ月というと、約90日になる。


例えば9月末創刊予定のIT分野コントロールド・サーキュレーション誌「IT Leaders」は創刊時に3万部の購読者を予定している(IT media tankより引用)。
http://www.fx-it.com/blog/2008/07/_it_leaders.html
購読申し込み開始が6月下旬。発行予定日が9月26日なので9月中旬には遅くとも購読者リストを締め切る必要がある。
創刊号までの購読者予約申し込み期間は3カ月に満たない。
そこで予約期間を仮に80日としよう。


80日の予約期間で創刊号までに3万部の購読申し込みを獲得するには、毎日375部の予約申し込みを受け続けなければならない。
この申し込みペースには土曜日と日曜日を含んでいる。
そこで平日ベースに換算すると、約526部になる。


この数字は実感としては非現実的だ。正直言って有り得ない。
月曜から金曜まで毎日500部の申し込み。それを3カ月近く続ける。
しかも8月はお盆で企業の大半が休みに入る。
絶望的なまでに難しいミッションだ。
現実に換算するとこれは、ヒット率5%(ずいぶん甘い数字だが許して欲しい)のDMを毎日、1万部ずつ送ることに相当するのである。


だから、断言しておく。
「IT Leaders」誌の創刊時に購読申込者数3万部はありえない。たぶん、1万部〜1万5000部程度だろう。
BPA公査を2008年11月に受ければ、そのことは明確になる。
ただ、同誌がBPA公査を受けるのは2009年5月または11月になりそうだ(IT media tankより引用)。
2009年11月時点でも3万部はかなり高いハードルなのである。
なぜなら、2008年8月に獲得した読者はすでに、更新期を迎えているからだ。


参考エントリー:
http://d.hatena.ne.jp/affiliate_with/20080712/1215937664