Electronics Pick-up by Akira Fukuda

日本で2番目に(?)半導体技術に詳しいライターのブログ

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日本で最も怒りがこみあげてきた場所

台風18号と台湾17号に挟まれつつ,23日の晩に無事帰国した。


ボーイング767-300の機内でフライトモニターを見たら,偶然にもちょうど,九州の南端を通過中だった。九州の南端と言えば,自分が日本を旅行した中で最も腹が立って怒りが込み上げてどうしようもなかった場所がある。


それは「知覧特攻平和会館」である。ここを見学したときは,憮然とし,腹の底から物凄い怒りが込み上げてきた。とにかく酷い場所である。見学者である日本国民を,ある責任から眼をそらし,欺き,騙し,お涙で洗脳させる装置だった。


知覧は第二次世界大戦当時の特攻基地の一つがあった場所。特攻隊員の遺品とか遺書とか遺影とか全氏名とか,戦闘機とかがならべてある。ここに来館した人の大半が涙を流して帰る,と観光バスのガイドさんはのたもうていた。ガイドさんの言う通り,館内には涙をハンカチでふきつつ見学している人が少なくなかった。


ところが「あること」がこの会館にはまったく書いていない。「誰が」,「何のために」,「特別攻撃(特攻)」なとどいう史上最大の軍事的愚策を立案し,計画し,実行したかである。原因にまったくふれていないのだ。このことに気付くやいなや,自分は知覧特攻平和会館のすべてが空々しく,空しく感じてしまい,続いて怒りが爆発しそうになった。


例えば展示の文「私たちは、特攻隊員たちの崇高な犠牲によって生かされ国は繁栄の道を進み、今日の平和日本があることに感謝し・・・」←特攻隊員が死なずに生きていれば,日本はもっと繁栄したはずである。特攻があったから平和があるかのような偽善かつ虚偽表現。酷すぎる。敗戦が明らかな中で無駄死にした彼らを美化し,責任逃れを企む何物か(=国家)の策略が見えてしまった。このあたりの分析は私の拙い文章よりも,非常に優れた一文がこちらにあったのでご興味の向きは是非読んで欲しい。というか読むべし。


実はこのとき私は,怒りと同時にすごく怖くなった。この偽善的な展示に簡単に騙され,多くの人々が涙を流している,という事実にである。知覧特攻平和会館はなぜか,観光バスのルートにしっかりと組み込まれている。観光客のほとんどは,否応なしにこの展示を見せられ,涙を流すのである。こんなにあっさりと騙されている。来館者の多くは,洗脳装置の仕掛けに気付かない。その事実はとてもとても恐ろしく,自分を孤立させるような気がした。


山上たつひこ氏の傑作に「光る風」(ISBN:4480033599)という作品がある。急速に進む日本の再軍備を描いたものだ。繰り返される過ち。押しつぶされる人権。知覧特攻平和会館の洗脳システムが機能していることは,「光る風」が現実となる可能性を改めて思い起こさせる。

光る風

光る風



そして今回の総選挙における与党の圧勝。衆議院では憲法改正を可決できるようになってしまった。小泉純一郎氏は筋金入りのタカ派である。個人的に想像する最も嫌なシナリオはこうだ。
2006年×月×日,憲法9条改正動議が可決される。憲法改正動議と同期して整備される法案では,自衛隊国防軍に,防衛庁国防省と改編されることが明記される。
2006年×月×日。憲法改正案の国民投票。賛成多数で可決。
2007年×月×日。国防省および国防軍の発足。
2007年×月×日。徴兵制の施行。


小泉純一郎氏は本当に選挙上手である。国会解散直後の自民党執行部の公約を読んで私は正直「やられた。しまった」と思った。非常に上手く出来ていた。公約にあった「小さな政府」はもはや必須事項である。財務省の言いなりと言えなくもないが,論理的には逆らえない。自分でも納得せざるを得ない内容だった。
NHK政見放送では,比例代表の部分を見比べた。民主党の漫才的なヘタレぶりにはあきれた。自民党の小泉氏は一人で熱っぽく,明りょうに,郵政民営化の効用を語っていた。27万人の郵便局員,25万人の警察官。なぜ27万人も郵便局員がいるのか。当然の疑問である。


そして小泉氏は国民性を冷徹に見切っている。国民は感情的で,忘れっぽい。難しく複雑な議論を嫌う。「何を語っているか」よりも,「誰が語っているか」を重視する。その「誰」に対する好悪が投票行動を左右する。小泉氏が田中真紀子氏を利用し,切り捨てたことなど,国民の多くは忘れているようだ。


論理と感情の両面で今回,自民党は野党を圧倒した。そして圧勝した。


小泉氏は首相になる直前,知覧特攻平和会館を訪れて涙を流した。
このことに好感情を抱く国民は少なくない。
小泉氏は2006年9月で自民党総裁を退任すると発言している。
シナリオが実現しないまま,予定通り退任して欲しい。心からそう思う。