Electronics Pick-up by Akira Fukuda

日本で2番目に(?)半導体技術に詳しいライターのブログ

「今を語る」ための裏付けに5年前のデータを使うネットメディアの流儀

最近、講談社のオンラインメディア「現代ビジネス」で、「20代男性の4割が童貞」という記事がバズっています。

ツイッターのタイムラインでは何本も流れてきました。
フェイスブックのタイムラインでも知り合いがシェアしています。

現代ビジネスの記事ランキングではトップになっています(すみません、自分が見たときなので今は違っているかも)。


gendai.ismedia.jp

「20代の4割が童貞」男が告白すらできなくなった驚きの事情(トイアンナ) | 現代ビジネス | 講談社(1/3)


本文冒頭にはこうあります。「日本人が絶滅する。SF映画に出てきそうなアオリが、現実になりうる日が来てしまった。アンケート調査で「20代男性のうち4割が童貞」だと発表したのだ。」!!


そして本文は調査がいい加減なものではないかと疑う読者に対して、このようなパンチを繰り出します。
「この調査はコンドームを製造販売する相模ゴム工業が男女1万4千人と、この手の調査サンプル数としては異例の数を対象にしたものだ。コンドーム会社にとって男性の童貞率増加は売上低下へ直撃するからこそ、れっきとした重要かつ真面目なデータなのである。」

すでに童貞を卒業しているであろう、40代以上の男性はもちろんのこと、女性にも響くアオリです。


そして20代男性は「恋愛もしてないんだ」!!と本文は畳み掛けます。

本文の続きです。「すると、20代未婚男性の6割にパートナーがいないことがわかった。なんと20代男性は、セックスのみならず恋愛もしていないのだ。その原因を見てみると、答えはあの『ゼクシィ』をグループに持つ、リクルートブライダル総研が把握していた。調査によると、20代は男女ともに他世代より「会社・サークル・仲良しグループなどの中での恋愛は何となく気がひける」と答える比率が高い。」


そのあとは、著者(トイアンナ氏)が自説をえんえんとご開帳していきます。最初の調査データ連続パンチでがっつりと読者を掴んだ著者のヒアリングによる若者の声に、中高年読者は「なるほどー今の若者はこうなんだー」などと感心することでしょう。たぶん。


ところが。相模ゴム工業の調査データは「5年前」2013年に発表されたものなのです。
sagami-gomu.co.jp
調査期日は2013年1月です。

5年前のデータで「今」の世相を得々と語っているのです。なにか違和感があります。


そしてリクルートブライダル総研が発表したデータは2014年のもの。相模ゴム工業よりは新しいですが、それでも3年以上前のデータです。
bridal-souken.net
http://bridal-souken.net/data/ra/renaikan2014_release.pdf


トイアンナ氏は、自説を披露なさったあとは、同氏の著作の宣伝で締めくくります。

本文の締めのあたりから。「たとえば拙著『モテたいわけではないのだが ガツガツしない男子のための恋愛入門』は、・・・」。
そして著書へのアマゾンリンクへと続きます。


なかなかすごい宣伝記事です。自著の。
トイアンナ氏の文章には、データの出年はまったく書いてありません。
仮に「5年前のデータ」、「2013年に相模ゴム工業が発表したデータ」と本文冒頭に書いたとしたら、読者に与えるインパクトはかなり弱まるのではないでしょうか。いや、関係ないかもしれませんが。


でもって。ここからが本論です。
筆者はここ数年、上記の記事に限らず、出典が数年前でありながら、それを伏せて記事を書く、というスタイルに違和感を感じていました。それは筆者が20代のときに職業教育を受けた新聞社系出版社の雑誌編集部が、「ニュース」を扱っていたからでした。今でも、書店で見かける紙の月刊誌は、数年前の発表データに基づいて記事を載せていたりはしません。というか、そういった記事を紙媒体では、見かけたことがないのです(調べが足りないかもしれません)。


しかし。ネットメディア、ウエブメディア、インターネットメディアは、全然違うのです。
初めは、某ニュースメディア「マ☓☓ビニュース」で、とあるライターによる科学記事を目にしたところからでした。


偶然、筆者のカバー範囲に相当する記事が眼に止まったのです。それは海外の大学が、とある研究成果を出したことを報じる記事でした。興味を持ったので、大学のホームページと研究成果を掲載した学会論文にあたってみたのです。


そしたら。☓年前の研究成果だったのです。1カ月前とかではありません。年単位で以前。これを知って筆者は困惑しました。これまでこのような記事(原典が数年前という記事)に出会ったことがなかったからです。そもそも筆者が職業訓練を受けた編集部では、月単位で過去の事象は見つかったとしても記事にせず、捨てていました。古くなったからです。ニュースを扱うのですから、そこは規範を持たないと、読者に対する裏切りになると考えていました。自分だけなく、編集部全体が。やむを得ず、例えば3カ月くらい前の出来事を記事にするときは「このほど」とか、言い訳のフレーズを入れてました。でもさすがに半年より以前のものは、記事にできませんでした。


ところが。某「☓イナ☓ニュース」で眼にした記事の著者は違っていました。気になったので、筆者による別の記事(いずれも海外大学の研究成果を紹介する記事)を3本~4本ほど、チェックしてみたのです。そうしたら。すべての記事が半年よりも過去の研究成果(発表時点で)だったのです。衝撃を受けました。「ニュース」メディアなのに、「半年以上前」の出来事がごく普通に掲載されていたことに。


その後、類似の状況をあちこちのネットメディアで見かけるようになりました。そして自分の考え方が変わりました。
「紙媒体の定期刊行物」と、「ネットメディア」は本質的に違っているという事実を認めたのですよ。
やっと気がついたのか、お前は。とか言われそうなんですが。そーなんです。


紙媒体育ちの自分はうかつにも、気づくのがとことこん、遅かった。ウエブメディア、ネットメディア、インターネットメディアが誕生してから、すでに25年ほどが経過しているのでした。ネットメディアだけで育った成人がいらっしゃったとしても、少しも驚いてはいけない。事態はそこまで進んでいたのです。


ネットメディアでは、出典が新しいか、古いか、元の出来事が新しいか、古いかなどはどうでも良いのです。重要なのはインパクトであり、センセーショナルであり、アオリであり、話題性であり、リツイートであり、シェアであり、そして場合によっては炎上することだと。なんでも良いから、ページビューを稼ぐことが正義なのだと。


ネットメディアで、ここ数日の掲載記事を読んでいて、下の方に出てくるおすすめ記事が3年前のものとか。珍しくもありません。それどころか、日付のない記事が出てくることすらあります。


ネットメディアは速報性に優れるから素晴らしい。確かにその通りです。
しかし一方で、ネットメディアのコンテンツにおけるニュース性は意味を持たず、バズることが目的となっているように見えます。時系列の無視など、当たり前なのです。


再び最初の話題、「20代男子の4割が童貞」の戻ります。
実はこの話題、ちょうど1年ほど前にこれもオンライン版「週刊女性」が記事にしているのです。
元データも同じ、相模ゴム工業の調査データです。

www.jprime.jp

週刊女性」は紙媒体ということもあってか。出典に年号(2013年)を明記しています。
記事本文はまあ・・・「週刊女性」らしいといいますか。


ただしこれだけは言えます。編集部のスタンスとしては、週刊女性オンライン版のほうが、現代ビジネスよりも真っ当だということです。


一方で、バズらせる、ページビューを稼ぐ、ツイート/シェアさせる、ことが目的であるのならば。現代ビジネスの方が、はるかに賢い(小賢しい?)と言えます。


こういうのって。どちらが良いんでしょうね。
自分は不器用なので。
いまさら、5年前のデータをしれっと誤解させるように出すことはできないんですけどね。
本当はそこまで鈍感に、あるいは図太く、やった方が良いのかもしれません。



そもそも読み手にとっては、古いとか、新しいとか、関係ないんですよ。
雑誌とかの編集部(当時)は新しさを気にしすぎ、なのかもしれません。


今は日経クロステックでも時系列がめちゃくちゃですしね。
何年も前の日経エレクトロニクスの記事が、日経クロステックの新しい日付でしれっと掲載していたりしますし。


そこでですね。自分も考え方を変えることにしました。
このブログですが。古いエントリーでも、今でも通用しそうな内容のものは。
ときどき、SNSで流して反応を見ようかと思います。


現代ビジネスの堂々たる振る舞いに比べるとささやかなものですが。


「なんか古いエントリーが流れてくるなー」とか。あっても気にしないでくださるとうれしいです。
とりあえず、言い訳でした。


古いエントリーを流す言い訳に、この長文とか。馬鹿ですね(爆)。
ツッコミはなしで、お願いします。