2005年3月7日ソニーの経営陣交代が発表された。ニュース系メディアの報道が一段落したところで,少しいろいろ考えてみた。
記者会見の模様は下記WEBで閲覧した。
まずはスタンダードな記事から。
MYCOM PC WEB:「エレクトロニクスの復活目指す」ソニー、首脳陣を刷新
今回のトピックスは経営陣がほとんど入れ替わることと,米国人であるストリンガー氏がCEOに就任することだろう。
ストリンガー氏については当然ながら,記事は少ない。CNETが直前に掲載したインタビュー記事が貴重である。
ジャーナリスト出身のストリンガー氏がソニーをどのように捉えているかが伺える。
コンテンツ事業とハードウエア事業の融合を世界的に進めるためにCEOになるということが示唆されているようで興味深い。そして次の記者会見記事である。
TechOn 「中鉢さんはグッドリスナー」,ソニーがトップ交代会見
ここで気になるのは冒頭の「(構造改革プログラムの)トランスフォーメーション60(TR60)をより加速していく」というストリンガー氏のコメントである。TR60は2003年に発表されたプログラムで,世界全体で当時16万人の従業員を2万人(日本国内は7000名)削減するというものである。下記記事を参照されたい。
CNET Japan ソニー、2万人リストラへ:構造改革推進に向け新たな経営方針を発表
事業改革のターゲットはまず,エレクトロニクス事業部門すなわちエレクトロニクスのハードウエア部門にあることが分かる。
ソニーの業績をみるとすぐ分かるのは,エレクトロニクス事業部門の売上高利益率の少なさである。売上高で6割を占めるのにも関わらず,利益はほとんど出ていない。一方,ゲーム部門は8〜10%,映画部門は4〜7%の利益をここ3年間は確保している。
そして日本のエレクトロニクス企業や自動車企業などに特有の問題として,地域別にみた売上高比率と従業員比率の不均衡がある。
ソニーの場合,地域別売上高のトップ2は日本と米国である。2004年3月期までの3年間をみると,日本が世界全体の28〜30%,米国が28〜33%,欧州が21〜24%である。
ところが,従業員比率は大きく違う。日本が40.9%,北米が13.4%,欧州が13.0%である。もっともこの数字はエレクトロニクス,ゲーム,金融のみなので少し注意が必要なものの,いびつであることは疑いもない。事業別人員構成はエレクトロニクスが76.3%,ゲームが3%,映画が3.8%,音楽が7.4%である。仮に音楽と映画がすべて北米だったとしても(少なくとも音楽は違うはずだが)北米は25%にもならない。
単純にみると,米国ではソニーの売り上げ高の1/3近くを,15%に満たない社員で稼いでいることになる。
ここまでみると,構造改革のターゲットは日本しかありえない。構造改革プログラムのTR60に戻ろう。「従業員を2万人(日本国内は7000名)削減する」とある。日本は35%である。
冷静にみると,これでは日本の従業員比率を高めてしまう。いびつな構造の温存である。そして,ソニーの株式の39.4%は外国人投資家が所有している。彼らからみると「TR60は手ぬるい」。そう筆者は考える。
ここまで検討すると,ソニーに待っているのは「TR60を超える大ナタ」だと推測する。そして日本人経営者には心理的にきわめて難しいことだと思う。その点,ストリンガー氏本人には心理的な抵抗は少ないと想像する。
ただ,劇薬をやみくもに投与してしまっては社員のモチベーションに関わる。そこで日本人的「ものづくり」精神の理解者である社長の中鉢氏が,ストリンガー氏を支えつつ,日本人従業員との橋渡しとなるのだろう。
ストリンガー氏による「ソニー改革の成功」を筆者は期待する。それがソニーのために,なるからである。ただ成功した場合,日産自動車と同様,日本人経営者の限界をさとらされることになる。それが少し悔しい。