PCWatch誌のコラム「セミコン業界最前線」で掲載しております。
「“量子コンピュータに匹敵する日立の新型半導体コンピュータ”の正体 」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/semicon/20150227_690458.html
この件は始めはISSCCで発表する研究だとは思いませんでした。技術系ウエブマガジンの記事タイトルが、ISSCCの発表タイトルとはかなり違っていたからです。
ウエブマガジンの記事タイトルはこんな具合でした。
「日立、量子コンピュータに匹敵するCMOS半導体コンピュータを開発」
「日立製作所、D-Waveの量子コンピュータに対抗する新型コンピュータを試作」
「日立が量子コンピューター似の新型コンピューターを開発、「2〜3年で実用化」へ」
「量子コンピュータ並み!? 「組み合わせ最適化問題」を瞬時に解く新型コンピュータ」
「「1兆の500乗」通りから瞬時に実用解を導く半導体コンピュータ、日立が開発 量子コンピュータに匹敵」
「日立、量子コンピュータに匹敵する性能の室温動作の新型コンピュータを試作」
「常温で動作可能--日立、量子コンピュータに匹敵の新型コンピュータ試作」
「量子コンピュータ」だらけです。これに対してISSCCの発表講演のタイトルはこうです。
「An 1800-Times-Higher Power-Efficient 20k-spin Ising Chip for Combinational Optimization Problem with CMOS Annealing(エネルギー効率が1,800倍高い、CMOSアニーリグを駆使した組み合わせ最適化問題向けの20kスピン・イジング・チップ)」
量子の文字はどこにもありません。イジング・チップとあります。ウエブマガジンの記事タイトルとの共通性はほとんどありません。同じらしいと気付いたのは、記事本文を読んでからです。すぐに日立のリリースを読みにいきました。日立のリリースのタイトルがまたなんと言いますか、こうでした。
「約1兆の500乗通りの膨大なパターンから瞬時に実用に適した解を導く〜室温動作可能な新型半導体コンピュータを試作」
このタイトルだけからISSCCの発表を連想するのは、無理です(滝汗)。本文中には詳細をISSCCで発表予定とありますので、たぶんコレだろう(講演番号24.3だろうの意味)と当たりがつきました。
日本ではたいした騒ぎになっているようですが、米国のISSCC会場ではいたって冷静というか、そんな騒ぎになっているとはまったく知らないという状況です。米国の技術メディアは(調べた範囲では)まったく日立の件にはふれていません。
日立の発表の仕方、日本のメディアの記事、そして米国ISSCCでの講演と論文。日米には大きなギャップがありました。ミスリーディングされている。ミスリーディングを放置しておくのは、現地にいるジャーナリストとしてはまずい。とってもまずい。
そんな理由から、検証記事を書いたわけです。相手が「天下の日立」ですから、何をされるかわかりません。正直、怖いです。でも勇気を振り絞って書いたのが、上記の記事です。
公開情報が限定されている話題は、想像で物を言う人であふれます。ネットそのほかで批判されるでしょう。これもあらかじめ分かっているので辛い。自分の記事も結構に未熟で、突っ込みどころ満載であるのは自覚しています。
記事を書いてから、想像通り、ツイッターまとめなどをみると批判が続出(きつー)。救われたのは、最も言いたいことを、量子アニーリングの考案者の一人である西森教授には理解していただけたようだということです。
https://sites.google.com/site/comments250215/
自分の記事を引用していただいております。そして引用箇所がアーチェリーの10点。ああ、分かっていただけた(誤解かもしれませんが)。それだけでもう、十分な気持ちです。本当にありがとうございます。
量子コンピュータへの誘(いざな)い きまぐれな量子でなぜ計算できるのか
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http://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/accessranking/20150302_690791.html
これも皆さまのおかげです。どうぞよろしくお願い致します。