Electronics Pick-up by Akira Fukuda

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【推薦!!】ポリティカル・フィクション・コミックス「今、そこにある戦争」が訴えかけるもの


今、そこにある戦争 1 (ビッグコミックス)

今、そこにある戦争 1 (ビッグコミックス)


外務省の分析官を主人公に、近未来の日本が中国と戦争を始める姿を描く「政治空想コミック」です。日本のタカ派の思惑、米国連邦政府の思惑、中国政府首脳と中国財界人、中国の若手官僚の思惑が絡んで日本が戦争に引きずり込まれる様子(しかも日本政府は戦争で美味しい思いができると信じつつ、主導権は自分達にあるというワナにはめられる)がかなりマトモなシナリオで進んでいきます。それなりのリアリティがあります。


リアリティの基盤にあるのは、近未来の日本政府も中国政府も米国政府もそれぞれの問題を抱えて身動きが取れなくなりつつあるなか、「戦争」を起こすことによって一気に解決を図ろうとする、そのグロテスクな意思です。ここは、民主主義国家の一員として政府の監視を義務を負う市民である我々が、特に留意すべき点でしょう。




日本政府も、中国政府も、米国政府も、それぞれの思惑によって戦争を始めて都合の良い未来が開けるという博打に出る。その怖さを描くことに、この作品はある程度、成功していると言えます。


ただし、日本政府が相変わらずお人好しであったり、日本の市民が現実感覚がなくて観客的であったり、米国政府が知能犯であったりするスタンスなのは、現実にはそうであると否定しがたいことなのですが、ややステレオタイプに感じられます。じゃあ、どうすれば良いのかというと、解決案があるわけではないんで弱いのですが。ただ、現実には米国政府にしても一枚岩ではないことは、イラク戦争のときの騒ぎで日本国民も良く知っていますし。もう少し深みのある描き方があるような気がしているだけです。


ビッグコミック系の漫画雑誌は、ポリティカルな難しいテーマにリアルに挑む作品が掲載されるので、その点は高く評価しています。人気がそれほど取れないリスクを取りつつも、問題意識の高い作品を送り出す姿勢には敬意を表します。それだけ、読者を信じているとも言えます。「今、そこにある戦争」は、異色作「隊務スリップ」とならぶ、戦争を扱った佳作といえます。


隊務スリップ 1 (ビッグコミックス)

隊務スリップ 1 (ビッグコミックス)

関連エントリー「海外派兵と徴兵制に突き進む近未来の日本を描いた秀作コミック「隊務スリップ」」
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